2012年11月24日

ウコッケイやるよ

ウコッケイやるよ数年前に釜平で知り合った3人のオジサマがいます。
そんな風にお呼びすることはありませんが、話しの展開上、誠に失礼ながら「ザキさん」「ムラッチ」「ヨッスィー」として登場していただくことにしてみます。

見知らぬお客さまが釜平のカウンターに座っていることは珍しいことではありませんが、急遽行けなくなった友人の代わりに、ひとりでジャズライブを堪能してきた帰りに寄った釜平は、いつになく大繁盛で、私の席も埋まってしまっていて座り慣れない奥の席に着席しました。

ウコッケイやるよ隣は3人の男性で、エラくご機嫌の様子でしたが、見知らぬ人でした。
私よりもだいぶ先輩に見えるソノ方たちは、どうやら釜平の看板ムスメのお知り合いのようで、ほどなく彼女も合流し、私を紹介してくれました。
正直なところ、相手がどなたであろうと、わざわざ紹介してくれなくてもいいですし、そういう場面で自己紹介をするのも得意ではありません。しかし彼女は続けます。
「ザキさん」と「パル」は高校同じなんですよと。(彼女は私のことをイヌを呼ぶ時のように《パル!おいで!》みたいにパルッ!と呼びます)

「ホォ~、部活は・・・?」
「それがまさかのハンドボールなんですぅ」と、彼女。

・・・ヤッちゃったヤッちゃった、このオンナ、何ベラベラしゃべっとんのじゃ・・・
ウコッケイやるよそれこそまさかの大先輩の登場に、絶句どころか、忘れかけていた奴隷制度が蘇ります。
母校が同じ程度なら問題もないのですが、直系の流れを宣告されたとたん「パブロフのイヌ」のようなモードに切り換えられ、なんなら先輩がビールを発注してから出てくるまでの時間を計り、場合によっては母さんに、「ちょっと遅いんじゃないか?」「アト2秒3くらい早く持って来れないか?」とクレームを入れる必要もあります。

灰皿が満杯かどうかの確認や箸が汚れていないかも気になり出します。
もちろん私が後輩だと知って、無意味な先輩風をピューピュー吹かすお年頃ではないのですが、私にはそれが不気味に見え、居酒屋でありながら「マクドナルド食べたくなっちゃったなぁ・・・」と、言い出さないことを祈るばかりです。

1ミリたりとも失敗の許されない環境の中で、「おー、はるクン、今度OB会があるから来なさいよ」と鶴が力強く一声発しました。
「いやいや、私はハンドボールをクビになったオトコですから、そんな場所に出ていくわけにはいかないんです」と伝えると、「気にするな」と、とても気になっちゃうお返事。
先輩はすぐさま私たちが当時神様と崇めていた二つ上の先輩に連絡し、「来てもイイってさ」と、段取りよく話しが進むのも、この奴隷制度の特徴的な一面です。
いま考えれば、所詮高校生の先輩後輩の関係の中で、どこからアノ恐怖が生まれていたのか不思議です。
思いがけず会っちゃう人がいると、「世間は狭いですねぇ」なんて言いますが、卒業以来、後輩たちは一度たりとも私の前には現れません。世間は案外広いのか。。。

オロオロする私を横でニコニコ見ているのがムラッチで、カウンターに腕組みをしたままもたれかかり、アタマを下げ、股間を見ているように見えるのがヨッスィです。

ウコッケイやるよ出てくる懐かしい名前の数々に震え上がるほど心当たりもあり、この状況下では「さぁ、飲みなさい、呑みなさい」と勧められるアルコール飲料も、麦茶なのか、それとも悪酔いし過ぎているのか、酔っていることを認識できない状態に陥ります。
それでも私のことをどれほど気に入ってもらえたのか、ザキさんは「ウコッケイやるよ!」と、おっしゃるので、「飼ってるんですか?」と聞くと「多すぎちゃって飼うのがたいへんなんだよ」と、「ウコッケイのタマゴ」ではなく「ウコッケイ」のようです。
ウコッケイやるよ
ナマの動物を、酔った勢いで「アゲル。」とおっしゃる豪快な方です。

その昔に知り合っていたら結婚式には「ヤギ」とかくれたかも知れません。

ウコッケイやるよ「んじゃ」と、2軒目に移動するとおっしゃるのですが、すっかり完成したヨッスィは千鳥足どころか、むしろ土俵入りのようにしっかりと地面を確認しながら一歩一歩進んでいくほど酔っていました。
乗り込んだ電車では女子高生をからかいはじめ、この私がトラブルにならないように気を使いまくる始末。
挙げ句の果てには、いつも成功すると豪語する「3人でピッタリくっついて出れば出れる」と言い切り、自動改札を「太った人が通りマ~ス」と通り抜けていきます。
全員キップは持っているので、「見つかったらキップを出しゃイイんだよ。プエ~ェ!」だそうです。
尊敬に値する仲良し3人組です。

駅から少し歩き、片側2車線の幹線道路を渡って目的地の「生駒寿司」には到着なのですが、ヨッスィは相変わらず土俵入り。
命がけでヘッドライトに照らされながらクルマを止め、土俵入りを助けます。もちろん私一人に託された使命です。
すっかりヨッスィの担当となった私は、店の中でも一瞬たりとも目を離さず任務遂行中です。

「今日はウマイよ」と出されたマグロをつまんだヨッスィは、ペタペタとカウンターにマグロを繰り返し押し付けます。

ウコッケイやるよ「ヨッスィ、それじゃぁオイシクないよ」

「ぇ、なんで?」

「それは醤油じゃなくてフシだから。。。」
「あらま。」
ヨッスィは磨き上げられたカウンターのアクセントになっているフシが醤油に見えたようで、注意しても注意しても「アレ~ェ、味しねぇな~、ウスクチなのかな、ペトペト」と何度も繰り替えします。

その後、伝説となり、たびたび「醤油の位置が変わっていないか確認に行こう!」という理由でお供させていただいております。
ザキさんたちにはすっかり可愛がってもらっておりまして、思いがけず大きなお仕事もいただくようになり、助けていただいております。

ザキさんは遠方にお住まいなので、ひっきりなしにお供することはできないのですが、先日釜平で久しぶりに再会しました。
聞けばハンドボール部時代にたいへんお世話になり、並々ならぬご迷惑をお掛けした偉大なる大監督がお亡くなりになられたとのこと。
長きに渡り、母校の好成績に御尽力され、ザキさんたちも教え子として、私同様インターハイに連れていってくれた「オヤジ」が亡くなってしまいました。
病にふせっていることは存じ上げておりましたが、新聞を取っていない私は訃報を知らず参列することができませんでした。
最後の最後もダメな私です。
御冥福をお祈りいたします。合掌。




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